対談

特別対談 黒牛の里&岡喜

牧場直送の近江牛が自慢の「岡喜」に、同じく牧場直送の知多牛を扱う「黒牛の里」。それぞれ自社ブランド牛の魅力を発信する気鋭店のオーナー、近藤さんと奥崎さんは、実は気心の知れた間柄。最高の肉を最高の状態でタイに届けるまでの苦労。そして最高の状態でお客様に提供するまで。既存の価値観からさらに一歩進んだ先について。時には辛口トークまで飛び出して…。前進するふたりのプロの、肉をめぐるアツい対談の様子をお届けします。

写真左:美味知多牛 黒牛の里 近藤 悟さん  写真右:近江牛 岡喜 奥崎 高広さん

美味知多牛 黒牛の里

柔らかく甘みのある知多牛の肉質を損なわないよう、加工、輸送、保存、調理と全ての工程で一切冷凍することなく、愛知県の自社牧場より空輸。素性のしっかりした安心で安全な牛肉を、20年以上の経験を持つお肉のプロと生産者がおいしく美しく提供し、人びとを魅了する。

黒牛の里の店舗詳細

近江牛 岡喜

神戸牛、松坂牛に並ぶ日本三大和牛のひとつ、近江牛の海外初認定店という貴重な一軒。飼料や水にこだわり自社牧場でじっくり肥育する近江牛は、やわらかな肉質と豊かな香り、しっかりした濃いうまみが特徴。「肉は旨くて当たり前」を掲げ、その先にある肉の深い世界に誘う。

岡喜の店舗詳細


――どちらも牧場直送で冷蔵のチルド肉の専門店ですが、展開のキッカケは?


奥崎:タイで本当に美味しいお肉を普及させたいという想いが先にあって、どう実現させるのかを考え出した時に、それを岡喜さんが汲んでくれてタイの事業に繋がったんです。岡喜は1839年創業の老舗で、今の代は三兄弟で経営・飼育・肥育・繁殖をしていて、牛の数だけでいったら1500頭くらいの牧場。黒牛の里の規模は大きいよね?

近藤:うちの会社はもともと牧場ですから、全部合わせたら何万頭もいる。知多牛の生産者だけで3牧場が黒牛の里に関わっていて、その方たちで愛知県内のシェアを半分以上ももっています。その知多牛を海外に普及させたくて、奔走する中でタカさんをご紹介いただき、タイ進出の後押しになりました。


――チルドだと輸送にも手間がかかりそうです


奥崎:タイの食肉流通の現状を調べると同時に他店や卸業者さんの扱うお肉を見てみると、冷凍肉が多いとわかった。それだけに、牧場直送で新鮮なチルド肉を扱う店を作ればアドバンテージができるなと。牧場の想いも届けられるし。

近藤:屠畜から輸入までに何十人もの人たちが関わってリレーをしてはじめて、最短でお肉が入るんですよ。買ってポンとただ送ればいいわけではない。まぁタカさんが最初に苦労して、うちは後から全部教えてもらったんですけど(笑)

奥崎:スピード感と日本との連携はもっとも気を使ってる部分。書類を申請して、その間にフライトの調整をして…で、タイ側に入ってからのスキームはゼロイチから作りました。チルド肉を入れたいと説明したら「なんでそんなことを?」って聞かれたくらい(笑)。冷凍肉を船便で送るならロスもコストも下げられるけど、賞味期限のあるチルド肉をエア便飛ばしてってなると費用もかかる。それをしてでも、タイにいるお客さんには美味しいお肉ってこういうものなんだって伝えたいから、必死だったよね。

近藤:熟成のようなテクニックも脚光を浴びているけど、お肉って時間の経過でどんどん劣化するから、結局は鮮度であり、素材勝負。例えばマグロも冷凍と生、味が全然違うでしょ。小さい頃、はじめて生マグロを食べた感動って僕、今でも覚えてるほど。お肉も冷凍を機械でスライスするならある意味ラクだけど、生のお肉はさばくのに知識と技術を駆使するものだから、これをタイのスタッフに教えるのは無理だよって多くの人は諦めていたりする。タイでもお寿司屋さんは何年もかけて作り手を育ててるのに、なぜお肉屋さんはそれをやらないのか?と。

黒牛の里の近藤さんは、15年以上の経験を持つお肉のプロ

――人材育成が課題?


近藤:いま日本の畜産分野を支えているのはベトナム、フィリピン、ブラジル辺りの技能実習生。彼らは数年で帰国して入れ替わるから、技術継承に繋がらない。日本人の若い働き手も来ない、後継者もいないしで、愛知県では小規模な牧場からどんどん潰れてます。最後の牛を出荷したらおしまい、みたいな。

奥崎:生き物だから365日24時間ずっと世話しなきゃいかん。事業継承の問題があって、大手メーカーさんだけが牛の頭数を伸ばしている一方、全体の生産力は落ちている。TPPもあって日本政府は海外にガンガン出せって姿勢だけど、ただ出すだけじゃそこに牧場の想いも何もない。美味しい牛を届ける形をスキームとして持っていれば、今後に生きてくるよね。

近藤:技術者を育てて外国と日本を行き来できるようにね。そのための第一歩がタイっていう。

肉を愛し、肉に愛されるという岡喜の奥崎さん

――以前と比べると、タイもずいぶん牛肉の質が上がりましたよね


近藤:僕らからするとまだまだ出来ることがあると思うんです。消費者によって求めるものが違うから、肉質の違いに敏感な人もいれば、冷凍でもお値打ちな方がいい人もいる。僕らがチルドにこだわって、本物の日本の牛肉の味をタイで知ってほしい、でやると割高になってしまう。お前んとこなんでこんな値段?って営業先で理解してもらえないこともあります。ただ、その価値を伝えていきたいです。

奥崎:僕たちは使命や責任を持って、美味しいお肉を扱っています。そこは崩せないし、崩さないし。その部分で日本人をはじめ多くのタイ人に喜んでもらえてるのはひとつの結果。今後、事業として継続していかなあかん。一方で、企業努力でお客さんにどこまで安く出せるのか?という挑戦もしたい。

近藤:普段使い的なね。黒牛の里と岡喜の肉を気軽に買えるお肉屋さんがあれば、ということで精肉の小売りとイートインの店が開店しました! その名もMeat&Co(me)です! スクンビットソイ39ですね。

奥崎:今の既存業態のような店をやれば、設備投資や人件費がかさみ、つまりお客さんからお金をいただくことになっちゃう。となればオペレーションを絞って安く出す、というのは僕たちが今やってるレストランでは行き届かなった部分。僕たちの新しいチャレンジは、毎日の食卓に寄り添う街のお肉屋さんみたいなこと。近藤さんがそのへんプロやから、ぜーんぶおんぶにだっこで(笑)。

近藤:たとえば、お子さんには安心なものを食べさせたいって、スーパーで買い物をする時は産地もしっかり確認するのに、外食だと店構えに信用しきってる部分ありますよね。メニューを開いて「和牛カルビ」「カルビ」ってあったら、後者は日本産じゃないことの方が多いんですよね。ウソはついてないんですけど。日本人の方は焼肉に慣れてるからいいとして、この状況でタイ人の方に「あー日本の牛肉おいしかった」と思われているのが悔しい。誰もが安心安全な本物の牛肉の味を食べられるようにするのが一番の目的です。


――今後の展望についても伺います


近藤:僕にとっては小さな頃から焼肉屋さんに行くって、いわばディズニーランドに行くみたいにドキドキしたんですね。そんな最高のエンタメを、家族や友達と楽しむ時に、やっぱり最高のお肉で「おいしかった」と満足してほしい。お家で集まってホットプレートで焼くお肉も、お値打ちでいいお肉を囲んでもらいたい。その先にビジネスに繋がる方法があればいいなと思う。

奥崎:いいこと言うなぁ(笑)。近藤さんとはアプローチの方法が違うけど、いいお肉が多く出回っていけば、という終着駅は一緒。業態に関わらず、日本から海外出店する者同士が協力しあい、日本の食文化を広めるコミュニティを作っていければ、普及活動もしやすくなるやろうし、飲食業界全体がもっと豊かになる。そこを発信していけるよう僕らも努力をしなくてはいけないですね。

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